「デジタル遺言まで待つ」でいいの?〜2026年5月のいま、遺言を検討している人の備え3つ

こんにちは!ごとう行政書士事務所の後藤です。

デジタル遺言に関するコラムも5回目。ここまでの4回で、デジタル遺言の全体像、保管証書遺言(仮)の中身、4方式比較、残る紛争の種を見てきました。

これまで各コラムを公開している途中でこのような質問をいただきました。

じゃあ、2028年の新制度ができるまで待った方がいいんですか?

今うちの親が遺言を書こうとしていますが、早すぎますか?

答えはご家族によって違います。ただ、判断をぼんやりさせずに、いくつかの項目で切り分けて考えると、自分(または親)がどちら側にいるのかがかなり見えてきます。

今回は、待つか・動くかの判断軸を整理したうえで、今日から踏み出せる備え3つ、そして将来の新制度に切り替える設計までお話ししていきます。

目次

この記事でわかること

  • 「待つか・動くか」を切り分ける4つの項目
  • 2026年のいま、すぐに踏み出せる備え3つ
  • 将来、保管証書遺言(仮)へ切り替える設計の考え方
  • 法制審議会・閣議・国会の動きをどうフォロ

正直にお伝えすると、遺言を作成するのは思い立ったときに早めが一番です!
ただ、費用もかかるお話しなので、その点を考えてお話ししていきます。

遺言の作成、待つか、動くか。判断のための4つの基準

結論から申し上げますね。「2028年度中の施行まで待って大丈夫な方」は、実はそれほど多くありません変数は次の4つです。

  1. 年齢・健康状態:70代以降、または持病・入退院がある方は、時間リスクが大きい
  2. 相続人同士の関係:微妙・疎遠・再婚や異母兄弟姉妹がいる場合、紛争リスクが大きい
  3. 財産の中身:不動産・事業用資産・自社株など、争点化しやすい財産がある
  4. 配分の偏り:法定相続分と異なる配分を残したい(特定の子に多め、家族以外に遺贈など)

この4つのうちいずれかに該当する方は、2028年度中の施行を待つより、現行制度で今から動くほうが合理的なケースが多いです。

逆に、60代前半までで健康状態にも不安がなく、家族関係も良好、財産もシンプルという方であれば、情報収集しながら新制度を待つ選択肢も十分あり得ます。公正証書遺言の作成がいいなと個人的に思っている方は、今すぐで構いませんよ!

備え①|いま使える制度で、遺言をひとまず書く

2026年4月時点で、実はすぐに使える選択肢がしっかりあります。下記のコラムは読んでいただけたでしょうか?

区分のうち、今日から選べるのは4つです。

  • 公正証書遺言(民法969条+2025年10月1日施行のデジタル化対応)
  • 自筆証書+保管制度(遺言書保管法、2020年7月10日施行)
  • 自筆証書遺言(自宅保管)/秘密証書遺言

このうち、確実性重視なら公正証書遺言コストや手間を抑えたいなら自筆証書+保管制度が実務での二大選択肢です。

公正証書遺言(2025年10月からオンライン対応)

民法969条に基づく方式で、公証人が関与するため方式不備リスクがほぼゼロ検認も不要です。2025年(令和7年)10月1日からは、公正証書の作成手続がデジタル化され、

  • ウェブ会議(Microsoft Teams)による遺言作成が可能に(公証人が相当と認めた場合)
  • 電子署名での作成完結
  • 電磁的記録(PDF等)での原本保管

といった運用が始まっています。「公証役場に通うのが大変」という理由で諦めていた方にとって、現行制度の中でいちばんデジタル遺言に近い実感を得られるのが、実はこの方式です。

民法969条(公正証書遺言)
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。
3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。

自筆証書+保管制度(2020年7月10日〜)

法務局(遺言書保管所)に自筆遺言を預ける制度です。保管申請手数料は1件3,900円(法令で定額)死後の検認は不要で、方式の外形チェックを保管官に受けられます。

「公正証書はちょっとハードルが高い」「まずは最小限の安全を確保したい」という方にとっては、2028年度中の新制度までのつなぎとしても非常に現実的な選択肢です。

民法968条(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

備え②|財産目録と家族関係を見える化しておく

どの方式を選ぶにしても、先に整理すべきは形式ではなく、中身です。ここが曖昧なまま書き始めると、どの方式でも迷います。

財産目録の準備

民法968条2項(平成30年改正・2019年1月13日施行)で、自筆証書遺言の財産目録はパソコン作成が認められています。通帳コピー・登記事項証明書の添付も可能です。つまり、手書きが苦手・面倒な方でも、財産目録だけはデジタルで先に整えることができるわけですね。
※手書きが病気や怪我などで困難な方は、本文を自筆する必要がある「自筆証書遺言」は不向きです。

整理しておきたい項目は、典型的にはこのあたりです。

  • 不動産(所在地・地番・種類・所有関係)
  • 預貯金(金融機関・支店・口座種別・概算額)
  • 有価証券・保険(商品名・受取人の指定状況)
  • 動産(車・貴金属・美術品など、評価の必要があるもの)
  • 負の財産(借入金・保証債務などの有無)
  • 事業用資産・自社株(法人オーナーなどの場合)

家族関係図(親族図・推定相続人調査)の準備

相続人の範囲を正確に把握するために、戸籍ベースでの親族図(推定相続人調査)を用意しておくと、後の手続きが一気に楽になります。特に、

  • 再婚・離婚歴がある
  • 養子・認知がある
  • 疎遠な兄弟姉妹がいる
  • 相続人のうち海外在住の方がいる

といった事情がある場合は、「誰が相続人になるのか」の整理が遺言の前提条件になります。

備え③|「いま書いた遺言」を将来の新制度につなげていく

3つ目の備えは、少し先を見据えた設計の話です。

保管証書遺言(仮)は2028年度中の施行が見込まれていますが、いま書いた遺言が将来無駄になるわけではありません民法1022条(遺言の撤回)、1023条などでは、前の遺言と後の遺言が抵触する場合、後遺言で前遺言を撤回したものとみなすと定めています。つまり、

  • いま公正証書遺言で書いた内容を、将来保管証書遺言(仮)で更新できる
  • いま自筆証書+保管制度で預けた遺言を、将来保管証書遺言(仮)に切り替えできる

という形で、いつでも書き直しが効くのが遺言の基本構造です。

民法1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

ここで大事なのは、「将来切り替えるときにもそのまま活用できる書き方、制度設計」をしておくことです。具体的には、

  • 財産の特定方法を明確にしておく
  • 付言事項で家族へのメッセージを残す
  • 遺言執行者を指定しておく

「2028年度中の新制度を待つ」ではなく、「今から書いて、必要に応じて更新していく」という発想に切り替えると、判断がぐっと軽くなります。

《個人的に…》

ご相談の現場で感じるのは、「完璧な遺言をいきなり作ろう」とすると、結局手が止まって何年も動けない、ということです。むしろ「一度書いて、暮らしの変化に合わせて更新していく」と決めたほうが、続きます。大事なのは、家族のいまの構図を反映した“今のバージョン”があること。将来の制度変更も、アップデートのひとつとして組み込んでいけば、あまり身構えずに動けます。

法制審議会・閣議・国会の動きをどう追うか

シリーズで繰り返し触れてきましたが、制度の状況を一次情報で追うのが、実はいちばん精度の高い方法です。2026年4月時点で、動きは次の段階にあります。

  • 2026年1月20日:法制審議会 民法(遺言関係)部会 第17回で要綱案を全会一致で決定(約2年・全17回の議論を経て)
  • 2026年2月12日:法制審議会総会で答申
  • 2026年4月3日:政府が民法等の一部を改正する法律案として閣議決定、同日国会へ提出
  • 国会:第218回通常国会で成立を目指す方針と報道
  • 施行:2028年度中を見込み

ここから先、衆参での審議入り・採決・公布・省令の公表と、情報が段階的に動いていきます。フォロー先としては、次のような公式情報源があります。

気になる情報はテレビやニュースの見出しよりも一次情報で追う、という姿勢を維持するだけで、誤解で判断を誤るリスクがぐっと減ります。私自信も行政書士として追いかけてコラムとしてまとめていきますので、ぜひ当サイトを定期的にチェックしていただけると嬉しいです。

まとめ(シリーズ全体の振り返り)

シリーズ5回分のエッセンスを、最後に3行で残します。

  • 「デジタル遺言」は2本立ての動き。公正証書遺言のデジタル化(2025/10施行済)と、保管証書遺言(仮)の新設(2028年度中施行見込み)
  • 制度施行を待てる方は限られる。4つの軸で切り分けて考えていくと、現時点で少しでも検討している人であれば、今から動くほうが合理的な方が多数と思われます。
  • 今日から踏み出せるのは3つ。①現行制度で遺言を書く ②財産目録・家族関係の見える化 ③将来の切替を前提にした設計

今日、できることをひとつだけ

このシリーズを読み終わったあとに、ひとつだけ行動に移すとしたら、こちらをおすすめします。

自分(または親)の相続人の範囲と、財産の概算を、A4一枚に書き出してみる

たったこれだけで、「遺言をどう書くか」の議論が、具体的で、わかりやすくなります。書き出してみて、「思った以上に複雑だな」と感じたら、そこで一度プロの手を借りるタイミングです。この調査や書き出しもプロがサポートしますよ。

シリーズを閉じるにあたって

これまで複数回にわたってデジタル遺言のコラムにお付き合いくださり本当にありがとうございました。

デジタル遺言は、「便利になる」という一言ではまとめきれない、大きな設計の改正です。このシリーズが、「自分や家族の場合は、どうするのがいちばん安心か」を考え始めるきっかけになれば幸いです。


「シリーズを読んで、自分の場合をそろそろ整理したい」
「財産目録だけでも一緒に作ってもらいたい」
「親と一度話し合ってみたけれど、次のステップに悩んでいる」
そんなときは、ごとう行政書士事務所までお気軽にお問い合わせください。
福岡・熊本・大分エリアは直接訪問でのご相談も対応しています。WEB会議・LINEでのオンライン相談もOKです。

\ 遺言・相続のご相談はこちらから /

(参照情報)法令(e-Gov)

(参照情報)法務省

(参照情報)日本公証人連合会

(参照情報)国会・首相官邸

(参照情報)閣議決定関連の報道

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