こんにちは!ごとう行政書士事務所の後藤です。
これまで、現在法案としてあがっているデジタル遺言の全体像と中身を見てきました。


読んでくださった方から、このタイミングで続けて届くご質問が、だいたい次のような内容です。

結局、いま遺言を書くならどれが一番いいんですか?



自筆証書と公正証書という名前は聞いたことがあるけれど、他のも合わせて違いがよくわからないんです
「どれか1つだけが正解」という話にはならないのが、遺言の難しいところです。ご自身の考えや状況をもとに、自分が何を優先するかで、フィットする方式が変わると思っていただくと良いですね。
今回は、いま日本で使える3つの遺言方式+保管制度に、2028年度中の施行が見込まれている保管証書遺言(仮)を加えて、5つの区分で横並び比較していきます。「自分の状況ならどれが合いそうか」の見当がつくようになる回を目指します。
この記事でわかること
- 2026年4月時点で選べる遺言方式(自筆/公正/秘密/自筆+保管制度)の違い
- 施行後に加わる保管証書遺言(仮)を含めた5区分の比較表
- 費用・確実性・検認要否・本人確認の厳しさ・オンライン対応度の判断軸
- いま書くなら、どの方式がどんな方に向くのか
先にまとめ:5区分の比較表
文字より先に全体像を見たほうが早いので、比較表から出します。
| 区分 | 根拠 | 主な作成場所 | 作成媒体 | 手数料(目安) | 証人 | 本人確認 | 家裁の検認 | 2026年4月時点 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ①自筆証書遺言(自宅保管) | 民法968条 | 自宅など | 紙(自書) | 0円 | 不要 | 自己責任 | 必要 | 使える |
| ②自筆証書+保管制度 | 遺言書保管法 | 自宅などで作って法務局へ | 紙(自書) | 保管申請3,900円 ほか | 不要 | 出頭で確認 | 不要 | 使える |
| ③公正証書遺言 | 民法969条 | 公証役場/オンライン | 紙または電磁的記録 | 財産額連動(数万円〜) | 2人必要 | 公証人+証人 | 不要 | 使える(オンライン可) |
| ④秘密証書遺言 | 民法970条 | 公証役場 | 紙(自書/PC可) | 手数料11,000円+α | 2人必要 | 公証人+証人 | 必要 | 使える(利用は少数) |
| ⑤保管証書遺言(仮) | 新設規定 | 自宅などで作って法務局へ | 紙または電磁的記録 | 政省令で未確定 | 不要(保管官が関与) | 出頭原則/ウェブ会議可 | 不要の方向 | 2028年度中施行見込み |
※費用・運用は2026年4月時点の情報です。正式名称・手数料は法案成立・政省令で確定します。
それでは、1つずつ中身を見ていきましょう。
①自筆証書遺言(自宅保管)いちばん手軽だけど、リスクもある
根拠は民法968条です。遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印するのが現行の要件になっています。
2026年の民法改正案(令和8年4月3日閣議決定)では、要綱案の第2で押印要件の削除が盛り込まれました。公布・施行後は、全文・日付・氏名の自書は残しつつ、押印はいらない方向に整理されます。
財産目録は平成30年改正(民法968条2項)でパソコン作成が認められています。通帳コピーや登記事項証明書をそのまま添付する運用も広がっています。
いちばんの弱点は、自宅保管したときの「見つけてもらえるか」「書き換えられないか」「方式不備で無効にならないか」の3点ですね。方式不備で無効になる事例は、いまだに実務で珍しくありません。死後には家庭裁判所の検認(民法1004条)が必要で、相続人全員への通知や開封手続きに数か月かかることもあります。
- 向いている人:とにかく一旦書いておきたい方、内容が比較的シンプルで大きく揉めそうにない家庭
- 向かない人:偏った遺し方をしたい方、相続人間の関係に不安がある方
②自筆証書+保管制度 今も使える「自筆と公正証書の中間解」
「自筆は不安、公正証書はハードルが高い」という方のための中間解が、2020年7月10日施行の自筆証書遺言書保管制度です。根拠は法務局における遺言書の保管等に関する法律。
自筆で書いた遺言書を、法務局(遺言書保管所)に持ち込んで預ける制度です。ポイントは次のとおりです。
- 保管申請手数料:1件 3,900円(法令で定額)
- 遺言者本人が出頭必須。代理人不可
- 様式は省令で指定(A4・片面・余白など)
- 死後の検認は不要
- 保管官が外形的な方式チェックを行うので、方式不備のリスクが少し下がる
- 生前は本人しか閲覧・撤回できない
「自筆の気軽さ」と「保管の確実性」「検認不要のメリット」が同居しているのが大きな強みです。2028年度中見込みの保管証書遺言(仮)が施行されるまでの今使える最適解として選ばれるケースも増えています。
- 向いている人:費用を抑えつつ、紛失・改ざん・検認リスクを少し減らしたい方
- 注意点:遺言内容そのものの法的チェックはしてもらえません(あくまで外形チェック)
③公正証書遺言 確実性は現在の最高位(2025年10月からオンライン対応可)
民法969条に定める、公証役場で作る遺言です。公証人が関与するため方式不備リスクがほぼゼロで、検認も不要。相続実務で最も信頼されている方式です。
2025年(令和7年)10月1日には、公正証書の作成手続のデジタル化が施行されました(日本公証人連合会の公表に基づく)。これにより、次のような運用が広がっています。
- ウェブ会議(Microsoft Teams)での遺言作成が可能に(公証人が「相当」と認めた場合)
- 公証人・遺言者・証人の電子署名で作成が完結
- 原本は電磁的記録(PDF等)として専用システムに保管
ただし、作成にあたっては証人2人が必要で、手数料も財産額に応じて法定されています。数万円から数十万円になるケースもあり、自筆に比べるとコストはかかります。
- 向いている人:相続財産が一定規模以上、家族構成が複雑、偏った配分を残したい、確実性を最優先したい方
- 注意点:証人選びと手数料は事前に段取りが必要。ウェブ会議は公証役場ごとに運用の慣れに差がある局面もあります
④秘密証書遺言 現在は利用が少ない方式
民法970条に定める方式です。遺言者が署名押印した遺言書を封に入れ、公証役場で公証人と証人2人の前で「自分の遺言書である旨」を申述し、公証人が封紙に日付等を記載する、という少し独特な手続きを踏みます。
- 内容は公証人にも証人にも見せないので、秘匿性は高い
- 自筆でなくて良いので、パソコンで作成したり第三者に書いてもらったりすることも可能
- ただし、公証人は「封」にしか関与しないため、中身の方式不備があれば無効になるリスクが残る
- 死後の検認は必要
- 手数料も別途必要(11,000円+α)
遺言の中身を徹底的に秘密にしたい、という動機でなければ選ぶ理由が乏しく、実務では利用が少ない方式です。今回の改正案では、要綱案第3で秘密証書遺言の見直しも議論されています。
- 向いている人:中身を絶対に誰にも見せたくない方(ただし現代では限定的)
⑤保管証書遺言(仮) 2028年度中に加わる第4の方式
これまでの記事で紹介してきた新設方式です。令和8年4月3日に民法等の一部を改正する法律案として閣議決定、同日国会に提出されました。施行は2028年度中が見込まれています。
制度の骨格は次のとおりです。(前回の記事でもう少し詳しくまとめています!)
- 遺言本文は紙でも電磁的記録(PC・スマホ)でもOK
- 電磁的記録の場合は電子署名が必須(方式は省令委任)
- 法務局への保管申請が必須
- 保管官の面前で全文を口述
- 原則出頭、「相当と認める」場合はウェブ会議可
- 検認不要の方向
- 死亡後、相続人・受遺者・遺言執行者が閲覧請求可、他の相続人にも通知
費用・電子署名の方式・運用細則は省令で今後具体化されるため、2026年4月時点では手数料水準も未確定です。
- 向いている人:制度開始後、自書が難しくなってきた方、遠方で公証役場に通いにくい方、検認の手間を避けたい方など
- 注意点:制度施行まで時間があり、「待つべき人/動くべき人」の切り分けが必要(後日またまとめます!)
選び方の5つの判断軸
5区分を並べただけだと、かえって迷います。実務で効く判断軸を5つに絞ると、次のとおりです。
- 確実性(無効リスクの低さ):③公正証書 > ⑤保管証書(仮) > ②自筆+保管 > ①自筆 > ④秘密証書
- 費用の抑えやすさ:①自筆 > ②自筆+保管 > ⑤保管証書(仮・未確定) > ④秘密証書 > ③公正証書
- 検認の手間(不要なほど楽):②③⑤が不要、①④は必要
- 自書負担の軽さ:③⑤(自書不要または電磁的記録可) > ①②④(自書必要)
- オンライン対応度:③(2025/10〜)> ⑤(2028年度中〜)> その他
もっとわかりやすく語弊を恐れずまとめると、いまの時点では次の整理になります。
- 確実性最優先 →③公正証書遺言(2025/10からウェブ会議も可)
- コスト抑えたい、かつ最低限の安全は欲しい →②自筆証書+保管制度
- 2028年度中以降の新方式を視野に入れたい、いまは情報収集したい →⑤保管証書遺言(仮)の動向を見つつ、②または③も検討
最後にまとめ
今回の内容をまとめます。
- いま選べるのは4方式+保管制度。2028年度中に保管証書遺言(仮)が加わる見込み
- 確実性最優先なら公正証書遺言、費用を抑えたいなら自筆証書+保管制度が2026年時点の現実解
- 方式の選択は「器選び」のようなもの。まずは家族構成・財産・健康状態の全体像・どのように遺したいのかを整理してから、方式の議論に進むのが実務的
次回以降のコラムでは、「制度ができても残る紛争の種」(遺言能力・不当な影響・遺留分)や、「2028年度まで待つか、いま動くか」の判断の整理を、引き続き扱っていきたいと思っています。
「自分はどの方式が合うのか、じっくり話を聞きたい」
「親の遺言、制度施行まで待つか先に進めるか迷っている」
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